ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 食べて飲んで語らって時折奏でて、音楽好きな仲間と過ごす時間はとても楽しい。ここに連れてきてくれたジャンに、そして仲間に入れてくれたしげさんたちに、チャコは深く感謝した。


「よし! チャコちゃん、ぼうず。今からあれ弾いてやるから踊れ! めいっぱい楽しめ!」


 日が暮れ始めるころ、しげさんに踊れと促された。他のメンバーも楽器を構えている。

 チャコはすぐに立ち上がると、あのときとは反対にジャンの手を取り、立ち上がらせる。ジャンに手を重ね、もう片方を肩に置けば、ジャンも手を腰に回してくれる。あのときと同じメロディーが流れはじめて、チャコはジャンと一緒になってくるくると回った。


「ジャン! やっぱり楽しいね!」


 ジャンも楽しいと言わんばかりの表情だ。同じ気持ちでいるのがわかってとても嬉しい。あー、この時間がもっと続けばいいのにとチャコは思った。

 演奏が終わり、しげさんたちが拍手を送ってくれる。チャコも感謝の気持ちを込めて拍手を送ろうと思ったのだが、ジャンにグッと腰を引き寄せられて阻まれてしまった。ジャンは腰に添えた手はそのままに、反対の手でチャコの唇に触れてくる。そしてゆっくりとそこを撫でられた。片手が腰に回ったままだから、二人の距離はとても近い。人前でのその過度な接触にチャコはもう気を失ってしまいそうだった。


「あ、こらっ! 軽々しく触れるもんじゃない。まったく油断も隙もないな」


 しげさんの制止でようやくその手が離れ、チャコはほっと息をついた。ジャンは不満そうな顔をしているが、今は構っていられない。

 チャコはもう顔が熱くてしかたない。その熱を冷まそうと自分の席に戻り、残っていたジュースを一気に飲み干した。けれどジュースが甘ったるいせいかまったく熱がひいていかない。空のグラスを持ったまま戸惑うチャコに山さんが冷たい水を渡してくれた。それを口にすれば、ようやく気持ちが落ち着いてくる。山さんに礼を言えば、「いいえ」と言って優しく微笑んでくれた。

 ジャンのほうをちらっと見てみれば、まだしげさんに叱られていた。
< 63 / 185 >

この作品をシェア

pagetop