ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 日が完全に暮れて、チャコとジャンは一足先に店を出た。今日も一緒に河川敷まで歩く。店に止めていたチャコの自転車をジャンが押し、チャコはその隣を歩く。心なしか二人のその距離はいつもより近くなっていた。



 河川敷に到着すると、ジャンはそこに自転車を止めてチャコに渡してくれる。


「ありがとう、ジャン。今日楽しかったね」


 同意を求めるようにジャンを窺えば、いつものように微笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。


「なんでだろう。こういうときって、なんか淋しくなるね……」


 なんだか離れがたくて、そうこぼせば、ジャンにそっと手を握られた。さらに反対の手が唇に触れてくる。そして、またゆっくりと撫でられた。先ほどしげさんに叱られたことなどジャンは気にしていないようだ。

 ジャンはずっと優しい微笑みを浮かべている。やっぱり触れられると恥ずかしい気持ちはあるけれど、チャコは自分が大切なものになったような気がして、ジャンの感触を素直に受け入れていた。目を閉じればその温度までよくわかって、ジャンをとても近くに感じられる。

 そっと離れていくそれに合わせて、チャコもそっと目を開けば、そこにはまだ愛しい微笑みが存在していた。


 チャコの心に灯った温かくて切ない気持ちはもう自覚できるほどにその形をあらわにしていた。
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