ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「ありがとう。でもね、誘っても来てくれるかどうかがわからないんだよね……」


 恵も由香もなぜそんなことを言うのかわからないというようにとても驚いた顔をしている。


「いや、さすがに来てくれるんじゃない?」
「うーん、わかんない。連絡先も教えてくれないし。どこかで会う約束なんてしたことないもん……」


 ケイタイでなら自由にやり取りができるんじゃないかと思って、以前尋ねてみたことがあるのだが、ジャンは困った表情をするばかりで教えてくれなかった。しげさんたちもジャンの連絡先は知らないという。


「そうなんだ。てっきり普通に連絡取りあってるもんだと思ってた」


 チャコとジャンはしょっちゅう会っているし、傍から見ればそういうふうに見えるのだろう。だがチャコが河川敷に行かなければ二人は会うこともできないのだ。


「天使さんはまだ何も話さないの?」
「うん……こっちから話せば、リアクションはしてくれるよ? でも、ジャンのことに関して何か聞くといっつも困った顔してる。声に出すのが無理ならって思って、紙とペン渡してみたこともあるけど、『ごめん』って書かれて終わった……」


 そのときのことを思いだして、チャコは苦い気持ちになった。ジャンは自分に関することを隠したがる。それは二人の距離が縮まっても変わらなかった。


「何だろうね。何か事情がありそうな感じはするけど……話したくないというよりは話せないのかもしれないね」


 由香の言葉にその場が静まり返った。


「……チャコはそれでも告白したいんでしょ?」


 その静寂を破ったのは恵の問いかけだった。


「うん、伝えたい」


 それがチャコの本心だ。チャコはその想いを伝えたくてしかたなかった。


「じゃあ、もういつもの感じでぶつかってこい! チャコはそうするのがいいと思う」
「私もそう思う。思うままにやってみるのがいいよ」


 二人の言葉が温かくて、チャコは少しだけ泣きそうになった。


「恵、由香……うん、そうだね。そうする! もし夏祭りがだめでも、告白だけは絶対する!」
「それでこそチャコ! 行ってこい!」


 恵に背中を勢いよく叩かれて、チャコは送り出された。
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