甘い香りが繋ぐ想い
授業が終わり、次の講義室へ移動するため、校舎の裏通路を歩く。

木々が生い茂り、日陰が多く、表通路より断然涼しいからだ。暗く寂しい裏通路も、夏のこの時期だけは学生たちの往来が盛んになる。

けれど、何故か人気がない。
珍しいなと思いながら先を急ぐ。

「ねぇ、君」

背後から男性の声がしたが、自分が呼び止められたとは思いもせず、立ち止まることなく先へ進む。

「ねぇ、待ってよ」

もしかして自分を呼んでいるのかと、立ち止まり振り向くと、あっという間に3人の浴衣姿の男に囲まれた。

「君、何年?学部は?今暇?ちょっと付き合ってくれない?」

矢継ぎ早に問われ、いわゆるナンパというやつだと理解した。

「私、これから授業なんですけど」

「サボっちゃえよ」

そんなこと出来るはずがない。
真夢は奨学生だ。出席日数もしっかりとカウントされる。欠席はおろか、遅刻でさえも奨学生資格を取り消されるのだ。
そうなれば、授業料や寮費を払わなくてはならなくなる。

「すみせん、私急いでますので」

その場を立ち去ろうとしたが、強く腕を掴まれた。

「離してください」

《恐怖》という文字が真夢の脳裏をよぎる。

助けて、助けて……

心の中で呪文のように唱えた時、ふわりと甘い香りが真夢を包んだ。

「こんなところでサボりか?君はレポートの提出がまだだろう」

気怠そうな低音ボイス。

声の方に視線をやると、冷めた眼差しが真夢を捉えていた。

「西門先生」
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