甘い香りが繋ぐ想い
「サボっている暇があるなら、さっさと提出しろ」

視線は真夢を捉えたままだ。

「えっと……」

真夢は遼河の講義を取っていない。取りたかったが、人気がありすぎて3年生優先となり、結果、2年生だけで行われる抽選に外れてしまったのだ。

真夢が言葉に詰まると、冷たい視線は男たちに向けられた。
その冷めた視線は、容赦なく男たちを射抜く。

真夢の腕から男の手が離れ、

「あ、俺たちちょっと立ち話してただけです。じゃあな」

白々しい言葉を残し、男たちは逃げるように立ち去った。

「あ、あのぅ……」

「何だ。私は無駄話をする気はない」

遼河はスッと踵を返した。
後ろ姿が段々遠ざかる。

助けてくれたに違いない。真夢の胸がジワリと熱を帯びていく。
授業が終わったら、ちゃんとお礼を言いに行こう。
密かに想いを寄せていた遼河に会いに行く口実ができた。
ずっと見ているだけだった憧れの人と少しでもいい、何か話ができれば嬉しいし、明日からのパワーにできそうだ。

"西門先生は既婚者よ" 瑠璃の言葉がよぎったが、"これは憧れだ" すかさず自分に言い聞かせた。

それから真夢は、はやる気持ちを必死に抑え、長かった残りの授業を終えた。
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