冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
ふたりで
チェストの一番上の引き出しにしまったままになっていた青いノートを取り出して、日奈子はふうと息を吐く。

振り返るとベッドに座る宗一郎が優しい眼差しでこちらを見つめていた。
 
ホテルの裏で再会してからいつもの場所に停めてあった彼の車に乗ってふたりは日奈子のマンションへ戻ってきた。

気持ちが高ぶり抱きついてしまったが、あのまますべての事情を話すわけにはいかない。いつ誰に見られてもおかしくないからだ。

マンションへ戻って少し冷静になってみると、はじめから話をするためには母の話は避けて通れないと思った。
 
そして久しぶりに青いノートを手に取ったのだ。
 
母の遺した言葉を宗一郎がどう捉えるかわからなくて少し不安だけれど……。
 
手に触れる、少し冷たい感触に日奈子は不思議な気持ちになる。前回開いた時と明らかに自分の心持ちが違っているのを感じたからだ。
 
毎日のように読んでいたというのに、宗一郎からの二度目のプロポーズを受けてからはまだ一度も開いていない。

これがないと生きていけないとすら思っていたのに、そうではないと今ははっきりわかる。

母がここに遺したことを大切に、自分の頭で考えて生きていく力が自分にはある。
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