冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
本社からも宗一郎に対してスタッフからの特別な対応は不要と伝達されている。
 
それでもチーフは、彼が来たら必ず報告しろとフロントスタッフに厳命していた。
 
半年前にホテル九条京都のマネージャーから昇格する形で異動してきた彼は、少々上層部からの目を気にしすぎるところがある。

「鈴木さん、君も来て」
 
そう言われて日奈子は、チーフに続いて再びロビーへ出る。

ちょうど宗一郎が、フロントへやってきたところだった。

「おつかれさまです、副社長」
 
チーフが頭を下げると、彼は無言で頷いた。
 
声に出して挨拶を返さないのはロビーはあくまで客をもてなすための場所だという彼のポリシーがあるからだ。

業務連絡やスタッフ同士のやり取りは最小限に、なるべく宿泊客に静かで快適な時間を過ごしてもらうことを最優先に。それが冷たい印象に見られる所以でもあるのだが。

「副社長、とりあえず中へ」
 
チーフが彼を事務所の中へ促す。それに彼は首を横に振った。

「いや、私はこの後……」
 
——ガタン!
 
大きな音がフロアに響き渡る。
 
どうやら男性スタッフが荷物を運ぶキャスターを柱にぶつけてしまったようだ。
宗一郎の後ろで、スタッフが「失礼いたしました」と謝った。
 
途端にチーフが顔を歪めスタッフを睨む。
よりによってこんな時にと顔に書いてあった。
キャスターをぶつけてしまったスタッフは、入社二年目。
明るくてやる気がありなにより接客が好きだというところが日奈子にとっては好印象だ。
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