冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
こんなことは滅多にない。でもあとでチーフにネチネチ叱られるだろうと思うと日奈子は彼が気の毒になった。

「君、ちょっと」
 
宗一郎がスタッフを事務所へ促した。
 
釣られるようにチーフと日奈子も事務所へ入る。ドアを閉めるとチーフがスタッフを叱責した。

「キャスターの扱いには気をつけろといつも言ってるだろう! 副社長、大変失礼いたしました。彼のことは後でしっかり指導しておきます」
 
深々と頭を下げている。それには答えず、宗一郎は訝しむよう目を細めて同じく頭を下げるスタッフを見ている。

きっと叱責されるのだと事務所にいた他のスタッフたちにも緊張が走る。だが、彼の口から出たのは意外な言葉だった。

「君、顔色が悪いな。体調が悪いのか?」
 
スタッフ顔を上げた。

「あ……いえ、ただの寝不足です。早番から続けて勤務していますから……」
 
不意を突かれての問いかけに、正直に答える彼に、チーフがまずいといった表情になった。
 
ホテル九条東京のスタッフは三交代制で勤務している。シフトは負担がかからないようにある一定のルールを守りながら組む決まりで、夜勤と早番、早番と遅番など連続での勤務は厳禁だ。

もちろんホテル九条東京では、以前は厳守されていたが、新しいチーフになってからはややゆるくなり非公式に要求されるようになった。

「早番から? 連勤は禁止されているはずだ」
< 5 / 201 >

この作品をシェア

pagetop