オイスターガール

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「カァカァカァ!」
 朝から盛大な天然目覚ましが鳴った。
 
 「うるさいな、朝っぱらから」
 今日はカラスの鳴き声で目が覚めた。
 
 ゴミでも漁っているんだろうか。
 
 朝眠い目を擦りながらあったかいシャワーを浴び、トーストを焼いてジャムを塗りもりもりご飯を食べる。
私は朝はパン派なのだ。
 
 その後に歯を磨き学校へ行く準備も完了だ。
 
 いつものルーティンの他に新しくやることがある。

 それは新品の制服を着るということ。

 新品の制服に袖を通す。

「この高校の制服、意外と可愛いな」

 緑の柄のスカートがなかなかいいデザインをしていた。


 
 今日から高校生活が始まる。
 
 そして今日は入学式。
 
 遅刻するわけにはいかない。
 
 私はお母さんに「いってきます」と言い、10分前には到着出来るように家を出た。
 
 私は家から一歩出たら喋る事が出来ない。
 だから筆談をいつでも出来るようにノートを手に持ち歩いている。
 
美雪ちゃんはちゃんと遅刻せず学校来るかな、と少し心配したが彼女なら大丈夫だ。
 彼女は小学校、中学生と皆勤賞を取っているまさしく健康体と言っていいほどの女性だ。
 今日も10分前には学校に着いているだろう。
 彼女はそういう人だ。
 
 登校中、私と同じ緑のスカートの制服の人たちを、何人か見つけた。
 
 おそらく私の同級生になるであろう人達だ。
 みんな私と同じで少し緊張と不安な表情をしている。
 
 考えている事はみんな同じだな。
 
 そうこうしていると学校に着く。
 
 玄関へ行くとクラス分けの紙が大きく張り出されていた。
 そこには人だかりが、出来ていた。
 
 ここで私は重大な事実に気づく
あ、美雪ちゃんとクラス別になる可能性あるの忘れた、これはまずい、どうにか美雪ちゃんと同じクラスであってくれと願いクラス分けの紙をじっと確認する。
 
 私の名前は早々に見つかったがいくら確認しても私のクラスに渡辺美雪という名前がない。
 
 半分諦めながら他のクラスの名簿を見るとそこに美雪ちゃんの名前があった。
 
 まずい美雪ちゃんいないとなると私クラスに友達0人じゃん、どうすればいいの……すると玄関でうなだれている私に後ろから声がかかる
「優ちゃんおはよークラス分けどうだったー?」
 私はノートに「クラス一緒じゃないよ」とささっと書き返答する。
 
 すると美雪ちゃんは
「残念だねーでも優ちゃんならすぐ友達出来ると思うよ私、別のクラスだけど休み時間とか私のクラスにいつでも来てね」
 と優しい言葉をかけてくれた。
 
 やっぱり美雪ちゃんは優しい。
 美雪ちゃんの優しさに感動しながら私はありがとうと紙に書いて美雪ちゃんに見した。
 
 教室に入るとおはようと挨拶をされた。
 私はとりあいず手をあげてスマイルを返した。

 教室の席は半数も人が集まっていた。
 
 クラスメイトたちは互いに自己紹介をして、交流をはかっているようだ。
 
 私は黒板の前に張り出されている座席表で自分の席を確認した。私は窓側の前から2番目の席だ。
 
 周りがガヤガヤしていたが席に着くと入学式が始まるまで私はとりあいずスマホをいじって自分の時間を過ごした。

 そして入学式が始まった。
 入学式では基本座っていて、たまに頭を下げたりするだけだった。
 
 校長や生徒会長の挨拶が長くて退屈だなと感じ始めた後に主席の挨拶が始まった。
「主席の一条薫さんお願いします!」
 すました返事の後、一人の男が立ち上がった。
 
 頭脳明晰、いわゆる天才という雰囲気を感じる人物だった。
 
 髪型は韓国風マッシュで、顔も整った顔立ちをしていて、目の下のほくろが色気を感じさせる。
 
 私が学校生活で関わる事のない1軍キャラだな、確信した。
 
入学式の後にクラスでショートホームルームが始まった。
 
 担任の先生は男性の中年でヤクザの様な小太りな、怖そうな石崎という先生だった。
 
 開始早々、一人の男子生徒の態度が悪いと注意をしていた。
 
 この先生はかなり怖そうだ、怒ったら普通にパワハラしてきそうなので注意しなくては……
 
 担任の先生の話の後にクラス全員で自己紹介を行なった。
 私の苗字は「あ」行なので早々に私の番が回ってきた。
「次「安西優」自己紹介だ!」
 私は心の中で返事をした。
 
 返事が無いのでとても物静かな子と思われてると思うがそれは違う。
 私は喋る事が出来ない。
 
 不安と緊張で手が震える中、私は黒板に大きく文字を書いていく。
「初めまして、私は安西優です。私は場面緘黙症という症状で人前で喋る事が出来ません。
 
 なので普段はノートを使って会話をしています。
 
 皆さんと仲良くしたいと思ってるのでもし良ければ話かけて下さい。」
 
 静寂の中、私はぺこりと頭を下げて席に戻った。
 
 拍手は人並みの大きさだった。

 心臓がまだバクバクと鼓動している。
 
「次「一条薫」よろしく!」
 先生は確かにそう言った。
 クラス中の女子がどよめき出す。
 
 近くで見ると身長は170代後半はあるだろう、スラッとしていた。
 
「一条薫です。よろしくお願いします」
 と一言だけ言い席に戻る。
 
 後に大きな拍手が起きた。 
 顔がかっこいいからだろう、女子はみんな大きく手を叩いていた。
 
 そして私と主席の一条薫は同じクラス。
 関わることは無いだろうけど、嬉しいなと私は思った。
 
 その日の放課後、美雪ちゃんに一条薫と同じクラスになった話をすると
「羨ましい!私のクラスなんかジャガイモばっかりだよ!」
 
 そう愚痴っていた。
 
 
 
 
 
    
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