その狂愛からは、逃れられない。
「……蓮華。好きだ」
「っ!」
耳元で囁かれた声は、昔好きだった、光の優しい声。
あの日の夜の、蓮華を蔑むようなものじゃない。ずっと聞きたくて仕方なかった、蓮華の大好きな声だった。
じわりとまた涙が滲む。
「さっきの子。……もしかして、あの時の、俺の子か?」
泣くのを堪えながら、一度だけ頷く。
光に花蓮の存在を知られたくはなかった。でも、花蓮に関することには嘘はつきたくない。
すると、光は抱きしめる力を強める。
「少しずつでいい。今すぐじゃなくていい。でも、帰ってくることも、考えてみて欲しいんだ」
蓮華は、何も答えなかった。ただ、その腕の中で堪えていた涙が溢れ出して、止まらなかった。
「……急に来て悪かった。今日は帰るよ」
蓮華を送り届けるように、マンションの入り口まで背中に手を添える。
蓮華が振り返る間も無く、光は車に乗り込んでその場を去っていった。
蓮華は、その車の後ろ姿をじっと見つめた。