猛虎の襲撃から、逃れられません!

「えっ、何今の速さ…」
「シュシュッって蹴りが二回繰り出されてなかった?……超速くて一瞬だったんだけど」
「雫、空手とかやってたから知ってるんじゃない?」
「……ん」

ネット検索したら、彼が出ている試合動画のものがあって、それを三人で観ている。
最後の決め技は、上段二段蹴りだった。
それも、相手に防御する隙さえ与えぬ速さで。

オリンピックで採用されている空手(組手)は、伝統空手と呼ばれていて、寸止めの試合形式。
直接打撃を与えないというのが正式なルールだ。


オリンピックのゴールドメダリストがやっている空手道場。
津田道場と言えば、かなり有名な道場だ。
その道場主の息子さん。

雫も小学生の時に空手を習っていたが、津田道場に通う子たちは動きが俊敏で、圧巻の演舞(型)が有名だった。
雫は別の道場に通っていたから直接話したことはないが、もしかしたら毎年会場で見かけていたのかもしれない。
中学に入ってからは本格的に銃剣道に切り替えたため、最近の空手界の情報はあまり詳しくない。

「性格はどうだろうね」
「南棟に1人で乗り込んで来るくらいだから、行動力はありそうだけど」
「一応、うちらを先輩として礼儀を弁えてたし、チャラ男ではなさそうだけど」
「雫の彼氏候補としてどうこうじゃなくても、あのレベルだと合格点だよね」
「……そだね。今日のアレが、罰ゲームだとか賭け対象とかじゃなければ、ありだと思う」

他人事だと思って…。
ちーちゃんとさっちゃんは言いたい放題。

罰ゲーム。
そうだよね。
そういうことじゃない限り、私みたいなデカい女なんて、声をかけることもないだろうから。

昨日のあの出来事を友達に話し、揶揄い目的で見に来たとしか思えない。
だとしたら、今日見た彼は、俳優顔負けの演技力だ。

< 17 / 154 >

この作品をシェア

pagetop