Good day ! 2
次の日。
伊沢が社員食堂で早めの昼食を取っていると、目の前にコーヒーを手にした野中が現れた。

「野中さん、お疲れ様です。休憩ですか?」
「うん、あの…。伊沢ちゃん、ちょっといいかな?」

ヒィ!と伊沢は思わず引きつる。

(なんだよ?!伊沢ちゃんって。それになんか妙にモジモジしてるし。こ、怖い。不気味だ…)

野中はそんな伊沢の様子は気に留めず、向かいの椅子に腰を下ろした。
そしてまたモジモジとためらっている。

「あ、あの…。野中さん?何かありましたか?」

いつまで経っても口を開かない野中に耐え切れなくなり、伊沢が恐る恐る尋ねる。

「うん、あのさ。どうしたらいいと思う?これ…」

そう言って野中が差し出したのは『森下 彩乃』と書かれた昨日の名刺だった。

「どうしたらって…。それは…」

伊沢がスタッフを探し回っている間に、野中が機内にお客様の忘れ物を取りに行った事は、昨日のうちに聞いていた。
その時にこの名刺を渡されたという事も。

だがいくらお客様といえど、普通ならお礼を言うだけで充分だろう。
名刺を渡した経緯がよく分からない。

「そのお客様は、どういう流れで野中さんに名刺を渡したんですか?」
「それは、その。あの方が俺の名前を知っていて。だから自分も名乗らなきゃと思ったのかも…」
「え?あのお客様、野中さんのことをご存知だったんですか?」
「いや、単に俺がPA(機内アナウンス)で名乗るから、それを覚えていたらしい。仕事で飛行機に乗る機会が多くて、以前から俺のアナウンスが面白いって思っていたらしくて…」

なるほど、と伊沢は頷いた。

「確かに。野中さんはPAでいかにウケるかに命かけてますからね」
「アホ!そんなんちゃうわい!」

急にいつもの調子に戻ったかと思いきや、またモジモジと下を向く。
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