旅の終わりは  2人連れ

 ピピピピピピピピピ……
ベッドに備え付けの目覚ましアラームが鳴り始めた。朝だ。アラームを止めて「う~ん」と大きく伸びをして起き上がり、ベッドから降りた。

 窓にかかっている遮光性の良いカーテンを開けて外を見ると、ところどころに白い雲を浮かべた青空が広がる爽やかな朝だった。旅先でこんなによく晴れた空を見ると気分がマックスに上がる。手早く身支度を整えて1階のレストランで朝食を済ませて戻ってきた。

 ❝今日もあの人に会えるかなぁ。❞
ひそかに期待を抱いてバッグを肩にかけ、部屋を出て廊下を進み、エレベーターを待った。すぐにエレベーターが下りてきて扉が開いた。乗り込もうとして1歩進んだところで足が止まった。なんとそこにはたった今、思い描いていたあの人がいたではないか。

 「お・おはようございます。今日も会いましたね。」
 突然の遭遇で戸惑いながらも挨拶の言葉が出た。それとともに俺の心臓はドッドッドッドッと一気に高鳴り始めた。
 「あら、おはようございます。」
 花菜(あのひと)も一瞬驚いた表情をしたが、すぐににっこり微笑んで答えてくれた。
 
 「同じホテルだったんですね。」
 「ええ、同じでしたね。」
 「今日も良い天気で良かったですね。」
 「ええ、旅行中に雨降りじゃ大変ですものね。」
 
 初めて聞いたあの人の声だった。なんともとってつけたようなやりとりなんだが、小心者の俺にしてはよくできた方だと思っている。自分を大いに誉めてやりたい。
< 1 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop