鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
年俸は増やせないが、特別手当なら出してやるぞ

「部長、何か買って来ましょうか?」
「ん~、じゃあ、手軽に食べられる物を適当に。みんなの分もこれで買って来れるかな」
「えぇーっ、いいんですか~?」
「いいよ~。納期押してるし、みんなにも無理させちゃってるしね」
「うぉ~っ、部長、いつもすみませーんっ!」

近藤さんに一万札を手渡し、夕食の買い出しを頼む。

今受けている案件だけでも納期が微妙なのに、次々とイレギュラーな案件に追われ、今日に限っては販促会議の際に無茶ぶりでその場でサイトのCM動画の変更を余儀なくされ、昼休憩も返上して対応に追われた。

部署のみんなも連日の激務で疲労が滲み出ている。
SEの山下くんは既に三日間会社に寝泊まりしプログラミング作業に追われ、もう一人のSEの杉山(すぎやま)くん(将司(まさし))二十九歳は連日自宅に持ち帰って作業をしている。

部署を統括する私がしっかりしなければ、示しがつかない。

「山下くん、今日こそは家に帰ろうね!」
「……はい」

ごめんね、無理させて。

私に次いでスキルの高い山下くんに負荷がかかっているのは歴然。
SEとしての給料が他社より高めだから、少しくらい我慢してくれるのかもしれないが、さすがにこうも激務が続くと申し訳なさの方が勝ってしまう。

前の職場は、深夜にクライアントのアップデート作業が多かったため、仮眠室やシャワールームも完備していたし、フレキシブルな勤務体制だった。
夜通しで作業し、朝方に帰宅することも頻繁で、午後出社する社員も結構多かった。

けれど、この会社は違う。
就業時間は九時から十八時だ。

既に十八時を過ぎていて、今夜も残業確定だ。

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