鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「部長、最終のインスペクション(プログラムの仕様書やソースコード等に不具合がないかを調べること)をお願いします」
「ありがとっ、こんな時間までやらせちゃって」
「いえ、これくらいしか俺にはできないんで。部長みたく、もっと細やかなオンプレ(サーバーやデータベースなどの情報システムを自社で全て管理・運用すること)ができるようになれたらいいんですけど」
「っ……、ありがと」
「じゃあ、俺は家に帰りますんで。何かあったらメール下さい」
「うん、お疲れさま」
「お疲れ様でした~」

ミイラかと思うくらいやつれて顔色が悪いのに、達成感からか、山下くんは爽やかな笑顔を置き土産に職場を後にした。
部下に慕われるって、本当に役得だ。

社長からありえない提案を受けてから、十日が経とうとしている。
明日の午前十時にメンズ物の新シリーズがカット―オーバー(開発した情報システムが本番環境で稼動を開始すること)する予定で、納期が早まった案件もあり、山下くんにかなりの負荷を掛けていた。

ランジェリーブランドと言っても、レディースだけではない。
ベビーからキッズ、ジュニア、メンズ、マタニティ、シニア、医療用、介護用など、大手下着メーカーとしてフルラインナップで勝ち抜いて来た企業だ。

それぞれの部門での展開はもちろんのこと、トータルでのサイト運営はもはや国内トップレベル。
次々と新しい企画が生み出され、各部門での活動が目まぐるしい右肩上がりの会社だ。

常に重複して案件依頼がある状態で、正直七名のスタッフでは手が足りない。
明後日の納期をクリアできたら、人員を増やして貰えるように社長に直談判してみよう。

山下くんが仕上げてくれたソースコードをチェックしデバッグ(プログラムなどのバグや欠陥を見つけ、修正していく作業のこと)していた、その時。

「長時間そういう姿勢でいると、垂れるよ」

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