鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


とうとう出してしまった。
いやいや、何の問題もないんだけど。
もうだいぶ前に気持ちの整理をつけて、婚姻届にサインだってしたんだし。

だけど、いざ、……人妻になったという現実を見つめ直したら、物凄く照れくさくて。
必死に冷静を装ってはいるものの、心拍数は激爆上がりする一方。

『終わりにしよう』と言われた時は、もうホントに終わりなんだと思ったのに。
まさか、恋人である期間を終わらせよう的な言葉だとは思いもしなかった。

そして、彼の家に来たまではいいんだけど。
半月前に約束した、あの事が頭から離れなくて。

いや、それも、覚悟はしてるんだけど。
初めてじゃないし、何度もそういう姿を彼に見せてるんだけど。

それでも、やっぱり……。

彼がシャワーを浴びている間に気持ちを落ち着かせようと、パソコンを立ち上げる。
今すぐに、しなければならない作業があるわけじゃない。
こうでもしないと、心臓が張り裂けそうなくらいヤバいことになってるから。

請け負っている作業の中でも難易度の高いタスクを開き、無心でソースコードを入力する。
カタカタカタカタとリビングに響くタイピング音は、異常なほど早くて。
それが耳につく度に、更に緊張感に襲われる。

数日前に買った、彼ご所望のモノは身に着けてる。
自宅でシャワーを浴びて、正直着るか悩んだけれど。

会社で見てしまった光景に嫌というほど焦る自分を肯定しようと、これに賭けたんだ。

「栞那」

来た。
もう逃げれない。

「ちょっと待ってね」

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