鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
俺にどうして欲しいわけ?

「遅くなってすみませんっ」
「トラブルでもあったのか?」
「あ、いえ。下流工程(プログラミングやテストなど)の進み具合をチェックしてて時間を忘れててしまって。本当に申し訳ありません」

十八時半の約束なのに、待ち合わせの地下駐車場に着いたのは十八時四十五分。
既に十五分も過ぎている。
多忙を極める伊織を待たせてしまって罪悪感が募る。
栞那がシートベルトを締めると、車は静かに走り出した。

社長の車の助手席に乗っていることも、二人だけで出掛けることも、誰かに見られて変な噂でもたったら迷惑だろうに。
何度も待ち合わせ場所を変えましょうと伝えてるのに、一向に首を縦に振らない。
別に不倫してるだとか、援助交際してるとか犯罪になるようなことをしてるわけでもないのに、こそこそする必要はないという。
それだったら……。

「あの、社長」
「……ん?」
「社内でのメモのやり取り、止めませんか?」
「……」
「今はデジタル社会なのに、隠れてメモのやり取りをって、いつの時代でしょうか?」
「……で?」
「こそこそする必要がないと仰るなら、社長の携帯番号、教えて下さい。ショートメールでもいいですし」
「俺に番号教えたら、時間構わず呼び出すぞ?」
「へ?」
「それでもいいなら、教えるが」
「時間構わずって、……どういう意味ですか?」
「言葉のままだが?」

もしかして、遊び目的で呼び出すぞ、とでも言われているのだろうか。
見た目からして女性はよりどりみどりだろうし、これだけのハイスペックの男を世の女性が放っておくはずがない。

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