鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される
二十年後の君に会いに行く

「社長、今日はお顔色も良さそうで安心しました」
「……気を遣わせて悪かったな」
「いえ。社長の健康管理も私の役目ですので」

会社は年末年始休暇になってるが、伊織と三井は取引先の忘年会に呼ばれていた。
池袋と新宿と品川の会場を梯子して、伊織の自宅へと向かう車内。
伊織は後部座席で腕組し、目を閉じている。

「成海さんへは明かされたんですか?」
「……いや、まだ伝えてない」
「もういい加減、お伝えしても良いのでは?」
「……そうだな」

伊織は三井の言葉に苦笑する。

「仕事は強気な姿勢でいつでも完璧なのに、本当にプライベートとなると、どうしてこうも不器用なんでしょうね」
「放っとけ」

ハンドルを握る三井は、ルームミラー越しに溜息を零す。

「そういえば、Roxane(ロクザン)(訳:仏語で輝く/女性誌)の編集長が、またショーのチケットを送って来ましたよ」
「……都合が合わないと伝えておけ」
「いい加減、はっきりとお断りしたら如何ですか?一社くらい失っても、経営にそれほど支障は来さないですから」
「……ん」
「それか……」

ルーム越しに三井と視線が交わる。
お互いに何を言わんとするのか、通じたようだ。

「ハハハッ、一石二鳥だな」
「いえ、一石三鳥ですよ」
「……だといいが」

視線を窓の外へと移した伊織は、久しぶりに幸せそうな表情を覗かせた。

「出席で返事しておいてくれ」
「はい、承知しました」

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