クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
【アメとムチ】
9月末。いよいよ今日が締め日。
「笠間さん、明日は現金監査だから、合わせたら教えて。金庫の中は、今回、俺が確認するから」
「はいっ!」
「北川さん、これお願い出来る?」
時東さんは、慌てる様子もなく、的確に皆に指示を出している。無駄が無い。
他部署の部長達が、慌てて時東さんに声を掛けて来ても、話を聞いた後、淡々と答えていた。

カッコいい・・・思わず見惚れてしまう。
はっ!ダメダメ、時東さんに報告しないといけないんだから。
慌てて仕事に取りかかった。

明日の監査の準備と締め作業が終わったら、すっかり遅くなったなぁ。
「時東さん、お疲れ様でした。明日、宜しくお願いします」
「お疲れ様。俺も帰るから、一緒に駅まで行こうか。もう2人だけだから」
「はいっ」
私は慌てて帰る準備をした。

2人で帰る事に、ドキドキしながら部屋を出た時、
「あらっ、広大。帰るなら一緒に帰りましょ。私、車で来てるから」
声を掛けてきたのは、武郷さんだった。
「会社でその呼び方は、止めて貰えますか」
「ごめんなさい。つい、いつもの癖で」
「俺は電車で帰りますので。じゃあ、笠間さん、行こうか」
「は、はい」
私が武郷さんを見ると、冷ややかな目で私を睨んでいた。
「お、お先に失礼します」
「お疲れ様」
低くて冷たい声に、背筋がゾワッとした。
< 10 / 115 >

この作品をシェア

pagetop