クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
【過去に囚われた鎖を外す~広大】
4月からの法人化が迫り、仕事は他の職員に任せ、碧にも補助の仕事を頼んだ。
ベテランの安藤さんと、補助をしていた職員が、急遽辞めた石川君に碧を付けた。

俺は家に帰るのが遅く、夕食は外で済ませることが多くなってきた。
そのうち、碧が先に寝ていることが多く、たまに気付いて起きてくると、
「体壊さないようにしてくださいね」
「ありがとう」
そんな言葉だけを交わす日々が続いた。

しばらく碧を抱いていない。
久々に早く帰り、ベッドで碧にキスをしようとした時、携帯がけたたましく鳴り響く。
「誰だ、こんな時間に・・・」
見ると、大手企業の社長からだった。
「碧、ごめん」
俺はそのまま部屋を出て、電話が終わってベッドに戻ると、碧は眠りについていた。

明くる日も、同じ事が続き、
「またかぁ・・・碧を抱きたいのに」
碧を見ると、優しく微笑んでいた。
「広大さんは忙しいから、仕方ないですよ。先に寝ますね」
布団にくるまり、背中を向けた。
『あなたは忙しいから、仕方ないですよ』
母親が父さんに笑顔で言っていた言葉が、フラッシュバックした。
俺も碧に同じ思いをさせているのか?

事務所では、毎日、石川君と楽しそうに仕事をしている碧。
年齢も同じ。実直な石井君とは、きっと話も合うだろう。

もう碧は俺の妻になる。ただの彼女じゃないのに・・・
武郷で仕事している時と同じだ。同僚として仕事しているだけだぞ。
< 103 / 115 >

この作品をシェア

pagetop