クールな上司は捜し人〜甘愛を運ぶ幼き想い出
ただ、それが税理士となると、母親が浮気していた事と重ねてしまう。
相手の人は、俺の事を凄く可愛がってくれていた、そして父が最も信頼してた人。

碧はそんな事はない。
でも、母親もそうだった。そんな素振りなんて見せなかったのに、突然、その人のところに行った。
仕事上だから。今までそう割り切ってたのに、結婚するとなると、不安が益々膨れ上がってきた。
寂しさのあまり、もし、碧が俺を捨てたら・・・

そんな思いで過ごしていく内に、不安は蓄積されていく。
その日は週末で、夜、得意先の接待に呼ばれ、久々にかろうじて、意識が保てるほど呑んだ。
「ただいま・・・」
「お帰りなさい」
中に入ると、キッチンに立つ碧がいた。
最近の碧と石井君の事が頭をよぎり、碧の後ろ姿が、出て行く時の母親と重なった。
碧が俺以外の男と・・・
どうしようもない嫉妬に駆られる。

今の気持ちをぶつけるように、身勝手に抱こうとした。
「こ、広大さん!」
碧は俺の胸を力一杯押し、俺を突き放した。
「広大さん・・・広大さんらしくないですよ・・・」
「俺らしいってなんだ。いつも冷静でいる俺か?俺が嫉妬しないとでも思うのか?」
「何を言って」
「忙しくて構ってやれなくなって・・・こんな俺を見て・・・弱い俺を知って、他の男に気移りしないって言い切れるのか?」

過去に囚われた俺の気持ちが、一気に押し寄せた。
開けたことのない、鎖で閉ざして、隠してきた心。
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