秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
 新居に移ってしばらくしてから、彼女に手紙を書いた。彼女の携帯電話の番号も知らないし、LINEもメアドも聞くひまがなかったから、仕方なく、あまりうまくない字で便箋に書いてみた。

 何を書いたらよいのか話題に困ったが、新しい学校のことや彼女の体調のことや、思いつくことをだらだらと書いて、彼女へ送った。

 一週間経っても二週間経っても一ヶ月経っても、彼女からの返信は無い。それでも僕はまた手紙を書いた。返事が来なくても、また次の手紙を書いて送った。その次の手紙も、次の次の手紙も。次の次の次の、そのまた次の手紙も。ほかにできることが無かったからだ。

 そうのち、返信を期待するのを諦めた。返事が来ないとわかっている手紙に、そもそも彼女へ届いているかどうか、届いていたとしても読まれずに捨てられているかもしれない手紙に、彼女への思いを綴る。
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