秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
 悔しくて悲しい気持ちのまま、八月も最後の週を迎え、この家に居られるのもあと僅か。夏のあいだ、元気な姿を見せてくれたひまわりも、茶色にうなだれて枯れ果てた。そして僕は、かけがえのないひと時を過ごした伯父さんの家をあとにした。

 彼女へ、さようならも言えずに。



 新しい住まいは伯父の家よりも小さい。というよりも伯父さんの家が大きかったのだ。森に囲まれた小高い丘の上の西洋館。そこに彼女がいる。

 新たな住まいとなった部屋の窓を開けても熱風が入ってくるだけ。虫の声も聞こえない。聞こえてくるのは車のクラクションやとりとめのないざわめきだ。

 おじいちゃんとおばあちゃんは優しかった。九月に入り、僕は新しい学校へ通い始めた。親しい友だちはできなかったけれど、いじめにあうこともなく、僕はごく普通の平凡で平和な日常の中にいた。
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