秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
 僕は、黒い額縁の中の、写真の彼女をずうっと眺めていた。でも、思い浮かべるのは、もっとずうっとすてきな、僕だけが知っている沙耶さんだ。あの夏の日、二人でベッドにいるとき、見てはだめって言われていた毛布の中を見てしまった僕の目に、彼女の美しい裸身が焼き付いた。秘密の遊戯のときのやるせない表情も、見つめてくる大きな瞳も、すべて僕だけの三津井沙耶の姿だ。もう二度と会えない君の。



 毎年、彼女の命日には、僕はひとりで電車に乗って、彼女のお墓参りに行く。青々とした芝生に囲まれた白い墓石の前にひざまづき、目をつむり、彼女に話しかける。通っている高校のこと、授業のことや部活のこと、その他、思いつくことをすべて話す。
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