「好き」と言わない選択肢
 CM撮影の事を考えていると、ポケットのスマホが鳴り、画面をみる。拓真兄からだ。

「もしもし、どうしたの?」

「あのさ、明日の夜、空いてるか?」

「まあ、もんたに行くぐらいだけど」

「じゃあ、後で住所送るから来いよ」

「どうして? どこなの?」

「BARのオープンだから、招待してやるよ」

「ええ!」

 電話は切れた。もう、仕方ないな。お祝いの花束でも持って行けばいいのだろうか?

 準備に時間がかかったって言っていたけど、やっと開店出来るんだ。なんだか、ちょっと嬉しかった。

 あれ? 
 この感覚…… 嫌な予感が頭を過った…… 気のせいであって欲しい……


 金曜日、もんたへは行かず、指示された住所へ向かった。思っていたより明るくて、入りやすそうなお店だ。中はカウンター席と、窓際に丸テーブルがいくつか並んでいる。席はほぼ埋まっていた。

「おう来たか」

 私は一応持ってきた、ラッピングされた鉢植えを手渡した。

「満席で良かったね。誰もいなかったら、なんて慰めようかと思ったよ」

「はあ? これでも人望はあるんだぞ。これ、ありがとう。カウンターの空いてる席座れよ」

「うん」

 一番奥のカウンター席に腰をかけた。あれ? もしかして拓真兄、席をとっといてくれたのかな? その席には、咲音と雑に書いたコースターが置いてあった。

 何も注文していないのに、拓真兄が、綺麗な黄色のカクテルを置いてくれた。

「ありがとう」

「ゆっくりしていけよ」


 不思議と居心地は悪くない。少し、影になっているこの席が落ち着くのか、店の雰囲気も静かでいい。
 でも、一人で座っているのも悪い気がして、手伝いでもしようかと床に足を付けると、

「見つけた」

 唯一空いていた隣の席に、誰かが座る影ができた。
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