「好き」と言わない選択肢
「はあ…… おいしい…… ねえ、パパとママ、泣いていた?」

「ああ…… 娘が心配なのは当然だ」

「どうしたら、皆、泣かないでくれるかな?」

 口に入れた水が、体中に染みわたってくる。


「俺は、泣かないだろ? 昔から」

 拓真兄が、腰に手をあててニヤリと笑った。いつでも、どんな時も拓真兄は変わらないでいてくれる。


「そうだね。おじさんにいくら怒られも泣かなかったもんね」

「そうだ、俺は忙しくて泣く暇なんてない。だから、俺には何でも言えよ」

 拓真兄は、いつだって本当の兄のように、私の気持ちを一番に考えてくれていた。でも、今、一番気になってしまうのは……


「うん。ねえ、病院まで誰が、付いてきてくれたのかな? 部長だよね?」

 がっちりとした腕が支えてくれた感覚が残っていて、両腕に手をあてた。

「俺が来た時は、おじさん達が居ただけだ……」

「そう……」

 暗くなった窓の外に目を向ける。

 彼は、私が倒れた事を知らない分けがない。病気の事に気付かなればいいんだけど……
 そう思いながらも、彼が目覚めた時に居なかったことを寂しく思う自分がいた。そんな事は思っちゃいけないと、首を横に振った。

「咲音……」

 拓真兄が、複雑そうな目を向けた事には気づかなかった……

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