「好き」と言わない選択肢
 ガラガラとドアが開いた。

「主任!」

「あんた!」

 拓真兄の驚いた声に、私が驚いた。拓真兄は何に驚いたのだろう?思わず、拓真兄の顔を見入ってしまった。

「何がいいかわからなくて」

 優しい色でまとめられた花束が抱えられていた。

「あ、ありがとうございます。迷惑までおかけしたのに、申し訳ありません」

「謝る必要なんてないよ。ちょっとびっくりしただけだ」


 拓真兄が、じっと彼の方を睨むように見ていた。その視線に気づいた彼は、目を逸らさずに頷いた。それが、何を意味するのか、私には全くわからなかった。


「じゃあな、咲音。俺、店あるから行くわ」

「うん。ありがとう」

 拓真兄は、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた後、病室を出て行った。

「はい」

 彼が差し出してきたのは、よく冷えたsukkyだ。

「発売前に飲めるなんて、ラッキーだろ?」

「そ、そうですね。吐くほど飲みましたけど……」

「じゃあ、いらない?」

「いりますよ」

 私は、彼に取られないように、蓋を開けると一気に口の中に流しいれた。

「やっぱり、美味しい」

 思わず笑みが漏れてしまう。


「ふふっ」

 彼も、ボトルの蓋を開けた。


「なあ…… あの賭けの事、本当にまだ怒っているのか?」

「えっ? まあ……」

 あの賭けの事なんて、とっくに許している。でも……


「そっかあ。じゃあ、まだまだ、誤解を解く必要があるな」

「い、いえ。結構です。もう、分かりましたから」

 私は、顔の前で両手を広げて振った。
 

「そう? じゃあ。俺と付き合ってくれない?」
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