「好き」と言わない選択肢
 咲音が考えた物が商品となった時、俺に出来る事は何なのか? 咲音が作り上げた商品を、売り続ける場所を作りたかった。   
人の心に残る事を望まない咲音が、唯一望んだことを、どうしても叶えたかった。別に、もんたを継げば良かったのかもしれないが、もっと違う顧客にも伝えられる場所を作りたかった。
 それから、俺は必至にバイトして資金繰りをし、経営方法を学び、絶対に成功させる店を作るために日々を費やした。


 でも現実は虚しく、店をオープンして間もなく、咲音が倒れたと連絡が入った。

 病院の廊下を、急いで咲音の病室に向かうと、廊下に蹲る男の姿が目に入った。それと同時に、咲音の母の泣きじゃくる声も聞こえた。

 この男…… 嫌な予感しかしない。
 咲音が一番嫌だと思った光景がそこにあった。

 絶対に、咲音に見せたくない…… 
 俺は、その男を病院から追い出していた。

 だけど、病室で目覚めた咲音が会いたいと思ったのは、あの男なんじゃないだろうか? なんとなくだが、そんな気がした。


 咲音の病院へ行くため、開店準備を早めに始めていると、ポケットのスマホが震えた。
 見覚えのない番号に躊躇したが、画面をスライドした。

「はい」

「拓真さんのお電話ですか?」

「そうですが……」

 あまり聞きおぼえのない男の声だ。

「あの、昨夜病院でお会いした、木島と申します。咲音さんの……」

「ああ」

 あの男だとすぐに分かった。だが、何故俺に……

「少し、お話ししたい事があるのですが……」
 
 それから、数分でその男はやってきた。
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