「好き」と言わない選択肢
 タクシーが向かった先は、もんただった。今日は金曜日か……

「いらっしゃい」

 久しぶりだけど、おじさんもおばさんも変わらず迎えてくれた。いつもと同じ飲み物と焼き鳥。ほっと安心する場所は変わらない……

「さっちゃん見てみな。sukkyメニューに入れたら大反響だ。これ食べてみなよ」

 おじさんが出してくれたのは、餃子だった。特製のたれをつけて口に入れた。

「ああー! Sukkyだ。美味しい」

 鶏肉と大葉の餃子に、さっぱりとしたsukkyのタレが絶妙だ。

「アイスにかけたのもニューにしたよ」

 おばさんが、壁にかかったメニュー表を指さした。

「おじさん、おばさん、ありがとう……」

 ずっと言いたかった一言が言えた。
 sukkyだけの事じゃない、幼い頃からの全てに……
 おばさんも、おじさんもいつもとかわらない笑みを向けてくれた。


「もう一件いけそう?」
「うん。今日は気分がいいみたい」
「そっか。良かった」

「ここね……」

 彼が連れてきてくれたのは、拓真兄のBARだ。
 多分、事前に連絡してあったのだろう。空いていたカウンター席に座る。

「いらっしゃい。なんで二人で来るかな?」

「客に、文句言うのか?」

「はいはい」

 拓真兄が、コースターの上に置いてくれたのは、黄色と緑かかった綺麗なカクテル。

「あれで、作った」

 拓真兄の目線の先には、これ見よがしに棚に並んだsukkyだ。拓真兄は、私のsukkyがずっと売り続けられるように、この店を作ってくれたんだ……
 私の病気が分かった時、泣かないと約束してくれた唯一の人。自分の好きな事だけをやってる人なのかと思ったけど、この店を作るためだったんだ……

「うわー。綺麗……」

 グラスを口に運んだ。

「美味しい」

 もちろん、ノンアル。
 隣の彼の元にも、形の違う同じ色のカクテルが置かれた。

「このBARは、客の注文を取らないんだな」

 文句を言いながらも、カクテルを含んだ彼の口元は緩んでいた。

「これも、あれを使ってるな……」
 
 彼が棚に並んだsukkyに目を向けた。

「これもな」

 拓真兄が出してくれたのは、色合いのいいサラダ。その上にかかってるドレッシングは、sukky味だろう。

「美味しい……」

「だろ? 結構評判いいぞ」

「拓真兄…… ありがとう」

 言いたかった事が言えた。
 泣かないと決めてくれた拓真兄には、感謝しても感謝しきれない。どれだけ心強かったか……


「パパとママにも、食べさせてね」

「ああ、分かったよ。心配するな」

 拓真兄は、いつもと変わらず、忙しい手を止めずに言った。

「うん。ありがとう……」
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