「好き」と言わない選択肢
 もんたとBARに行った五日後……

「咲音、好きだよ」

「そればっかり……」

「言いたいんだから、いいだろ?」

 彼にはかなわない……


「主任…… 今日は、傍にいてくれますか?」

「えっ?」

 一瞬、彼の目が泳いだのが分かったが、すぐにいつものクールな表情に戻った。

「ああ、いいよ。仕事の連絡だけ入れるな」

 スマホを取った彼が、どこに電話するのか分かった。

 間もなくして、救急車のサイレンの音が近づいてきた。
 思っていたよりも苦しくないのは、きっと彼の腕の中にいるからだろう……

「ねえ、仕事以外の話、しましょうか……」

「いいのか? 嬉しいな……」

 彼の腕に、少し力が入った。


「Sukky、主任と一緒に作れて良かった」

「結局仕事の話じゃないか? 期待させるなよ」

「ははっ。主任の事思い出すと、sukkyが出てくるのかな? じゃあ…… あの時、賭けに名前出せてもらえて良かった…… はぁ……」

「ばか。二度と、賭けになんて名前出させるか」

 彼の声が掠れている。


 薄っすらと目に入った、ボトルに手を伸ばした。
 彼がゆっくりと、口元へもってきてくれた。

「美味しい……  はぁ…… 主任の腕の中って暖かいね…… 誰かの腕の中にいるなんて想像もしなかった……」

「咲音…… 新商品の企画まだだろ? まだまだ、やる事たくさんあるだろ?……」

「うん……」


「咲音、俺はお前が好きだよ」

 私が、最後に聞いた言葉だ……



「好き」

 その言葉は、美しくて、強くて、
 そして、大切な人への特別の言葉だ。


 言わないと決めた事は、けして楽な選択ではない。
 何一つ未来の約束を出来ない私が、簡単に口に出来る言葉ではなかった。
 言えない事の方が苦しい事もある……

 好きと言わない選択が、正しかったのか? 間違っていたのか? 正直分からない……

 あなたの泣き続ける顔が、なぜか浮かんでくるの……
 ただ、あなたに笑って欲しいと願っただけ……


「好き」と、言わないけど、私の心は好きでいっぱいだから……

 好きでいっぱいのままでいたかったから……

 「好き」と言わない選択肢をした
 私の我儘に付き合ってくれて、ありがとう……


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