「好き」と言わない選択肢
 木島遥様

 もし、私が居なくなってから、主任の泣いている姿をみつけたら、この手紙を渡して欲しいと拓真兄に頼みました。だから、この手紙を広げた主任は、きっと、泣いているのでしょう。企画部の皆に迷惑かけているのではないかと心配です。

 始めて発作が起きたのは高校三年の秋。それから色々な事が大きく変わってしまったの。

 長くても五年しか生きられないと知ったとき、とっても悲しかった…
 でも、私が死んでしまう事で、悲しむ人がいる事のほうがとても辛かった。そして、自分が大切な人と別れる事も辛かったの……

 だから、必要以上には、人とかかわりたくなかった。私が居なくなっても、気にならないくらいの存在で居たかった……

 それなのに、あなたと出会ってしまった……

 この世を去る時、辛くなるのが分かっていたから、あなたが私に近づいてくるのがとても怖かった。
 こんな気持ちにならなければ、死を受け入れる事も楽だったのではないかと思う事もあった……

 でも、主任と過ごした時間は、本当に楽しかった…… 
 とても、大切な、大切な時間……

 主任を悲しませてしまった事は、本当に辛いけど、でも、今、こんなに愛しいと思う時間が胸の中にある事に、私は幸せで仕方ないの……
 一緒に苦しむ道を選択してくれてありがとう……

 誰かの腕の中で、眠りにつく事がこんなに幸せだなんて知らなかった……

 私は幸せでいっぱいなの……
 主任も、幸せでいっぱいであって欲しい……

 私を見つけてくれて、ありがとう……

 P・S チーム皆で作ったsukkyが、少しでも長く皆に愛されたら嬉しいと願ってます。


 結局、彼女は好きとは言ってくれなかった。
 それが、彼女が選んだ選択肢だから……


 手紙と一緒に入っていたのは、クリアファイルに綴じられた資料だった。
 sukkyの新商品企画がいくつも綴られていた。

「なんだよこれ、こんな企画じゃ通らないぞ。修正ばかりだ。ちゃんと直せよ」

 ファイルを握りしめたまま、俺は、また泣いた……
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