「好き」と言わない選択肢
 二年後……

「木島、sukkyの新商品、なかなか好評だぞ。俺の営業の腕も上がる一方だがな!」

 休憩室の影で休んでいるのに気づくのは、岡田くらいのものだ。

「頼むから、しっかり営業してくれよ。企画にめちゃくちゃ時間と費用がかかっているんだからな」

「おお。課長にもなると大変だな。お前が駄々こねて譲らないって、有名な話になってるからな」

「勝手に言わせておけばいい」

 俺は手にしていた缶コーヒーを飲み干した。


「なあ、木島。俺、結婚する事にしたわ」

「そっか。例の彼女か? 幸せにしてやれよ」

 別に驚く話でもない。ただ、時間が流れている事を感じた。

「おお。お前は、振られても橋本ラブだからな」

「まあな……」

 岡田は、何も聞いてこないが、多分、咲音の事は気付いているのだと思う。それでも、俺に前へ進めとか、新しい恋だとか言わない。それが、俺には助かっている。
 もしかしたら、企画部の人達も……でも、知らないふりをして、sukkyへの変わらない愛情を注いでいる。きっと、その姿に咲音は安心しているだろう……


 毎週金曜日とはいかないが、もんたかBARに足を運んでいる。

「おお」

 拓真のBARに行っても。いらっしゃいとも言われない。

「あら。木島さん」
「おお。木島課長じゃないか」

 咲音の両親だ。最近、二人でよく来るらしい。
 愛の形は色々だからいいだろうと…… 咲音も、呆れながらも喜んでいるだろう。

「ご無沙汰してます」

「今年も、sukkyの売り上げ、好調らしいな。部長のおかげだよ」

「違うでしょ。飲んで売ってる、俺のおかげだろ? なあ、咲音?」

 皆が、棚に並んだsukkyを、黙って見つめた。

 けして、悲しみが消えたわけじゃない。でも、目先の事をやり熟さなければならない日々を送っている。

 
 BARを出て、なんとなくもんたへ足を運んだ。

「あら、いらっしゃい」

 何も変わらない、おじさんとおばさんが、忙しそうに声をかけてくる。

 相変わらず、指定席のままの隣りに腰を下ろした。


「おばさん、sukkyとビール二つ」

 若者達のテーブルからだ。

「はーい」

 店の中に響いた声に、ふっと笑みが漏れた。


「はいよ」

 カウンターから手が伸び、ビールとsukkyと彼女の好きだった焼き鳥が置かれた。

 彼女に出会ったのはこの店だ。
 あの、綺麗で冷たい視線を今でも忘れる事はない。

 カウンターの上の、sukkyのボトルを見ていた視線を、ふと彼女の席に目を向ける。
 冷たい視線の彼女が見えた。

 グチグチ言ってないで、ちゃんとやる事やりなさいよ! 好きな仕事ができるって、ありがたい事なのよ!  
 彼女の目がそう言ってる気がした。


「ああ、ちゃんとやっているよ……」

 つぶやくように言うと、彼女は優しく微笑んだ……

                                「完」




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