ラブ・ジェネレーション

「それがお父さんだとは知らなかったんだよ、顔を覚えるのは得意なんだけど、さすがに離れてから10年以上も経ってると顔つきも全然変わっていた、それでも不思議と私が惹かれるものを持っていたんだろね、毎日毎日その場所に通い続けたの、追っかけみたいにね」

「もう、優衣さんとは別れた後なんだね」

「うん、だからか彼の生活は荒んでいた、路上ライブの後は毎日のようにお酒を飲んでいたみたい」

「いつお父さんだって分かったの?」

「何日かしてギターケースに書いてある名前を見た時、胸が震えた、高橋くんだって、それが1ヶ月ぐらい続いたかな、その日は仕事が遅くなって彼のいつものライブの時間には間に合わなくて、諦めて友達と食事をしてたの、その帰り駅の改札を出て駅前の広場を通り過ぎようとした時、見慣れたギターケースが目に入った、その傍で半分意識をなくしていた彼をアパートまで連れて帰ったの」

「えー嘘みたい、お母さんにしては勇気を出したねー」

「自分でも信じられないくらいね、でも同級生だし好きな人だったんだから躊躇うこともなかった、そのたった一回の勇気が二人の運命を変えたんだよ」



『ここは?』
『私のアパート、はい、お水』

困ったような顔をしてコップを手にすると、彼は俯いて謝罪した、

『ごめん、何も覚えてないんだ』
『心配しなくても何もしてないよ、道路で酔い潰れていたのを此処に連れてきただけだから』
『すみません、見ず知らずの人に』

『見ず知らずじゃないよ、高橋くんは私を覚えてないの?』

驚いた顔をして、じっと私を見つめる眼差しは、小学生のあの頃と変わらなかった、


『まゆみ、鈴木まゆみだよ、小学校の同級生』

『まゆみちゃん? 本当に?』

嬉しかった、私のことなんてもう覚えてないと思っていた、

『良かったー、名前を言っても知らないって言われたらどうしようかと思ったんだ』

『忘れるわけないよ』

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