【電子書籍化】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
5章
 小鳥たちが、王城の周囲を軽やかに飛び回る。
 そのうちの2羽が、ある一室の窓辺にとまった。
 ぴちち、と会話をするような鳴き声を聞き、部屋の主――アルフレドは顔を上げた。
 
 この国には二人の王子がいるが、どちらが王位を継ぐかはまだ決まっていない。
 しかし、第二王子のディルクは、政務よりも学ぶことそのものに興味があり、得た知識や技能を活かしての補佐に回りたいと言っている。
 それもあり、次期国王として扱われてきたのはアルフレドのほうだ。
 おそらく、実際にそうなるだろう。
 自分は第一王子である、という自覚を持った時点で覚悟はしていたから、今更になって逃げる気もなかった。
 
 執務室で書類仕事をしていたアルフレドは、仲良さげに跳ねる小鳥たちを眺めた。
 そのうち、2羽は窓辺を離れ、じゃれあうように飛んでいく。
 自由に空を飛ぶ彼らが、なんだか羨ましい気もした。

 姉の結婚はすぐそばに迫り、想いを寄せていた女性は、他国の貴族と婚約した。
 王位を継ぐであろう自分が、この先も婚約者を決めず、ふらふらしていることはできない。
 これ以上のわがままは、許されなかった。
 1つため息をつき、再びペンを走らせようとしたとき、こんこん、とノックの音が響いた。
 やってきたのは、王家からの信頼の厚い老紳士。
 前王の側近だった男で、引退した今も、密かに王家をサポートしている。

「アルフレド様。お手紙が届いております」
「……!」

 入室を許可すると、彼はしずしずと一通の手紙を差し出した。
 白い封筒に、青いシールで封がしてあるだけの、簡素なもの。
 仕事中の今、通常であれば、あとで確認しようとそこらに放り投げてしまうだろう。
 しかし、この老紳士が持ってきたとなると、そうはいかない。
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