【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 自分の婚約者と、彼の幼馴染だという隣国の女性がキスする場面を目撃してしまったフレデリカ。
 キスのあとも彼らがなにか話しているのはわかったが、会話の内容までは聞こえなかった。
 他の人もいる場所で、婚約者のいる男と隣国の女性がキスをして、平然としている。
 フレデリカに見えた事実は、それだけだった。
 13年も婚約者をやっていた自分には、キスなんてしたことがないのにだ。
 あまりの衝撃に、足は震え、鼓動は早くなり、呼吸は荒くなった。
 今すぐこの場から――会場から立ち去り、逃げてしまいたい。
 もう、シュトラウスと同じ場所にいたくない。彼の姿を目にしたくない。

 それでもフレデリカは、この国の王女だから。王城で開かれた夜会を途中で抜け出すことはできないし、無様を晒すわけにもいかない。
 一人きりのバルコニーで、ぐっと唇を噛み、上を向いた。
 今日は、昼間からよく晴れており、夜となった今も空には多くの星が浮かんでいる。
 自分の心情とは真逆にも思える輝きは、今のフレデリカには眩しすぎるようにも思えた。

「王女としての務めを果たしなさい、フレデリカ」

 そう自分に言い聞かせると、己の身を隠していたカーテンをめくり、会場へ戻った。
 後ほどシュトラウスとも合流したが、フレデリカは動揺を表に出すことも、彼を問い詰めることもせず。
 何事もなかったかのように微笑み、来賓に対応し続けた。
 開会から閉会まで、彼女は見事、「王女フレデリカ」を演じ切ってみせたのだった。
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