怖い部屋-やってはいけないことリスト-
☆☆☆

純が初めて良子にバイトに出たらどうかと提案したのは、若菜が3歳になったときだった。


「若菜は幼稚園や保育園に預けるんでしょう?」


純は、自分たちがそうだったことから、当然そうだと思いこんでいた。
良子と純の両親はふたりとも幼稚園に預けて、その間共働きをしていた。
最も、それは両親が定食屋を営んでいたからだけれども。


「う~ん、まだいいかなって思ってる。どこかに通わせるにしてもここからじゃ遠いし」


良子は若菜を遊ばせながらそう返事をした。
若菜は自分のことを言われているとも思わずに、ぬいぐるみでごっこ遊びをしている。


「そう。まぁ、来年からもでいいけどね」


このときはそれで会話は終わった。
いずれにしても純はいつかは若菜を幼稚園か保育園にあずけるものだと思っていた。

でも、若菜が4歳になっても5歳になっても姉の純はその話を切り出さなかった。
若菜はすくすくと成長しているし、わざわざ預ける必要はないと判断したみたいだ。

それに関しては純も納得するところだ。
若菜はずっと家にいるわりに物怖じしないタイプの子供で、公園などに連れて行くとすぐに他の子たちと打ち解けて一緒に遊び始めていた。

男の子に髪の毛を引っ張られるなどいじわるをされたときだって「やめてよ!」と、大きな声で言えていた。
だから母親の良子が安心するのは最もなことだった。

幼稚園や保育園で教えてくれるようなお着替えや、おトイレを覚えるのも早かった。
若菜は手のかからない子供だったのだ。

でも……純が言いたいのはそうことではなかった。
3人で暮らし始めてからずっと私は1人で働いている。
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