怖い部屋-やってはいけないことリスト-
曾祖母から怒られた記憶はない。
しわしわの手をつないで庭を散歩したり、お菓子を食べたりした楽しい記憶ばかりだ。

だからか、ここに曾祖母はいないはずなのに、会いに来てくれたのだと感じた。


『おばあちゃん、家まで来てくれたの? 病院は?』


亜希の質問に曾祖母は答えず、ただ笑みを浮かべている。


『おばあちゃんも、なにか飲む?』


和也がそう訊ねると、曾祖母は少しだけ首を傾げて『そうだねぇ』としゃがれた声で呟いた。
そうだねぇ。
そう言った直後、曾祖母はふたりの前からこつ然と姿を消していたのだ。

ふたりはしばらく放心したようにその場に立ち尽くしていた。
ほどなくして、ふたりのもとに曾祖母が病院で息を引き取ったという知らせが届いたのだった。

思い返してみれば小さな変異は他にもたくさんあった。
道を歩いている人の顔が半分なかったり、川に流されている子供がいるのに、誰にもそれが見えていなかったり。

それらはみんな、生きていない人間たちだったのだ。
今回の鏡の件も、そういうたぐいなのかもしれないと思い始めていた。


「と、とにかくさ、あと何時間かで透子が来るから。そうすれば、この部屋からもお別れだし、ね!?」


亜希は佐々とらしく大きな声で明るく言ったのだった。
< 28 / 126 >

この作品をシェア

pagetop