閉店してからやって来る、お菓子の好きな騎士さんは

 なんというか、怪我の功名というやつですね。
 噛んだのが逆に良かったのかもしれません。

「はいっ、ありがとうございます!」

 私は意気揚々と、ケーキの一切れを箱に詰めていきます。
 騎士さんがご自宅でそれを召し上がられるさまを思い描きながら。
 それを想像すると、こっちの頬も緩んでしまいます。

 でも、そこでふと気づいたんです。

 このケーキ、騎士さんが持ち帰って召し上がられるなら、たとえば身内の方にも知られてしまうのでは?
 それに、ラッピングした箱を持って帰路を往くのなら、道行く人たちにもわかってしまうのではないでしょうか。

 夜遅い時間帯で日持ちしないケーキなのだから、贈呈用という言い訳も使えませんし。
 あ、家族へのお土産とかの名目ならいいのかしら。
 でも、一切れだけっていうのは逆におかしい? だんだんよくわからなくなってきます。

 それでまあ、夕方過ぎというのはダメですね。一日の仕事の疲れがピークに達しています。
 私は回らない頭のまま、勢いに任せて言ってしまいました。

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