幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


 母・美咲は先代組長である祖父の実の娘だ。
 若頭だった父は母と結婚し、婿入りすることになった。だから染井一家の本来の実権を握っているのは母になる。


「そしてあなたには、然るべき結婚相手をこちらで見繕います」

「何故ですか!?俺は鏡花以外の女とは……っ」

「くだらない感情に流されるのはやめなさい!!」

「!!」


 ここまで激しい怒りと拒絶を見せる母は、初めて見た。
 いや、以前にも見たことがある。あれは幼稚園の頃、あの短冊を見られた時だ――。


「あなたはあの娘に惑わされているのよ!」

「違う!俺は本気で鏡花を愛してる!」

「子どもじみた恋愛感情なんて何の意味もない。自分の身を滅ぼすだけ。
桜花組は、特にあの男は……染井に害を及ぼすわ。絶対に許してはならないのよ……」


 母さんの表情には並々ならぬ憎悪が見えた。それは、家の体裁を保とうとするものではない。
 明確な憎しみが感じられた。


「あの男の娘なんて絶対に許しません」

「母さん……!!」

「しばらくそこで頭を冷やしていなさい。あなた、行きましょう」

「ああ」

「待ってくれ!母さん!!」


 バタン!と扉が閉まった。この仕置き部屋は鉄のドアでできており、簡単に壊せるものではない。


「クソ……っ!」


 思い切りドアを殴っても、痺れるような痛みが拳に走るだけだ。

 諦めるものか。母にはきっと何か理由がある。
 桜花組を、鏡花の父を憎むだけの理由がある。


「っ、鏡花……」


 絶対に諦めてなんかやらない。
 今更鏡花を諦める選択なんてどこにもなかった。


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