好きな事を言うのは勝手ですが、後悔するのはあなたです

1  婚約破棄!?

「ごめん。婚約を解消してほしい。彼女に子供が出来たんだ」
「……彼女…? 子供…?」

 突然の言葉に驚いた私は、彼からの婚約の解消を願う言葉よりも、その後の言葉に引っかかった。

 目の前にいる中肉中背、金髪碧眼、見た目は温和そうで優しげな彼、ハック・エルビーは伯爵家の嫡男で、私よりも2つ年上の19歳だ。
 そして、子爵令嬢である私、アンジェ・ティーノは、彼の婚約者だった。
 いや、まだ、婚約者である事は確か。

 ハックとは7日に一度のデートを続けていて、待ち合わせたカフェで、少しの雑談の後に先程の言葉をさらりと言われてしまった。

「待って。好きな人ができたから婚約の解消ではなくて、子供が出来たから婚約解消なの? 順番がおかしくない?」
「遊びのつもりだったんだ」
「……遊びのつもり? 子供が出来るような行為を、あなたは遊びでやっていたの?」
「そ、それはまあ、その…」
「じゃあ、聞くけれど、私がそんな事をしていたら、あなたはどう思っていたわけ?」
「そりゃあ、ショックを受けるし、軽蔑するよ」
「そうよね!? それなのにあなたはどうしてそんな事を!? どうして体の関係を持ったの!?」

 そんな事をされて、ショックで悲しいという気持ちを伝えるよりも、彼を責める言葉で頭がいっぱいになっていた。

 だから、彼を責めた。

 すると、開き直った彼は叫ぶ。

「そういうところが嫌いなんだ! どうして、自分の過ちを認めないんだ! 普通は、自分に魅力がなかったから浮気されたんだと思うだろ!?」
「どういう事…?」
「浮気をさせる様な女性である事を謝るべきだ!」
「え…? あ、あの……ご、ごめんなさい…」

 叫ばれた声に驚いて、つい謝ってしまったのがいけなかったのか、ハックはここぞとばかりに責め立ててくる。

「最初からそう謝るべきなんだ! いいかい!? 僕が浮気したのは君のせいだ! そして、子供ができたのも君のせいだ! 僕は責任感のある男だから、子供を育てる義務を全うする! だから、婚約解消だ!」
「そんな…。私の事が嫌いなら、そんな事になる前に何か言ってくれても良かったんじゃないの!? 私が悪いからって浮気してもいいだなんて…! それに考えてみたら、おかしいじゃない! どうして浮気が私のせいになるのよ!? 謝るべきはあなたでしょう!?」

 言い返した時だった。

 ダンッ。

 と脅す様に、ハックは足元の木の板の床を靴で叩いて大きな音を出すと、私を睨んで言った。

「君が悪いんだ! いいか? 僕は金色の髪が好きなんだ。だけど、君の髪は黒で下品だ!」

 どうして、黒色が下品なのかはわからない。

 彼の言葉が聞こえたのか、隣の席の黒髪の女性が、ハックをじろりと睨んだ。

「瞳の色もそうだ! 赤色だなんて気持ちが悪い! 痩せすぎているし、背も他の女性よりも高い! 君がヒールを履くと見下されている様で嫌なんだ!」

 そうね。
 ハックは普通の男性と比べたら背は低いもの。

「……だからヒールの低いものしか履かない様にしていたわ…」
「そんな事をされても意味がないんだ! 小さくならなきゃ意味がないんだよ!」
「何言ってんだ、こいつ」

 背後で私の護衛であり、幼馴染でもある彼が呟く声が聞こえた。

「わかったよ。考え直す。婚約解消じゃなく婚約破棄だ。僕を浮気させ、彼女に子供ができてしまった罰として慰謝料請求するから、ちゃんと払ってくれ」
「何を言ってるの? 慰謝料を払うのはあなたでしょ?」
「浮気した理由は君にある! だから、僕の家は払わない!」

 ハックは支払いも済ませずに、言いたい事だけ言って、店を出て行ってしまったのだった。

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