ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 迎えに来るとは言われたけれど、いつ来るのか正式に話が来たわけじゃない。
 王都から馬車に乗ってやって来るならば、馬車がこちらに向かって走る姿を確認した頃、両親から声を掛けられるでしょう。

「ミスティナ様。いつ殿下が姿を見せるかもわからない状態で、そのようなお姿はいささか問題なのでは……」
「いつ殿下が訪問してきてもいいように、絢爛豪華なドレスを身に纏っていろと言うの?お兄様に笑われてしまうわ」
「お兄さんはミスティナ様の美しきお姿に感銘を受けることはあっても、馬鹿にすることはないかと……」

 ツカエミヤはお兄様が私に当たりの強い時期を知らないから、そんなことが言えるんだわ。
 情緒不安定になる前のお兄様は、着飾った私を馬子にも衣装と馬鹿にしていた。

「下着姿でうろついているわけではないんだから、いいじゃない」
「しかし、そのようなお姿では──」
「迷える子羊が教会に迷い込めば、教会へ急行しなければならないのよ。絢爛豪華なドレスは動きづらいし、私は村娘のみすぼらしい服が大好きなの」
「ミスティナ様……」

 ツカエミヤは感動で目元を潤ませた。
 変態令嬢は贅沢三昧、取り巻き令嬢が少しでも良い宝石やドレスを身につけていると認識するや否や、身ぐるみを剥がして自分のものにするような人だと聞いたわ。
 変態令嬢と私を比べたら、誰だって私の方がマシだと思うでしょうね。

「ミスティナ様は身分関係なく、領民に寄り添う素晴らしきお方です!」
「ありがとう」
「私はミスティナ様に、生涯を捧げます!」
「危なくなったら、逃げるのよ?」
「わ、私だけ逃げ果せるわけには──」
「見つけた」
「ミスティナ様!」

 地獄耳の魔法が使えるツカエミヤは、いち早く危険を察知して私を庇う。
 待ち人の声は、私を前にすると暖かで優しい声音へ変化していたはずなのに──私の耳が認識した声は、氷のように冷え冷えとしていた。
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