ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 殿下は私に対する態度は優しいけれど、変態令嬢に向ける態度がかなり辛辣だったことを思い出す。
 殿下にとって、ツカエミヤは私との仲を邪魔する敵なのかしら。
 それとも……。私が可愛がっている、手の掛かる子どものように感じているの……?

「待ちきれなくて、書類を持っているアンバーを置いてきてしまった。馬車が到着するまで、もう暫く掛かるんだ。今すぐに証拠は出せない」
「しょ、証拠が本物であるとわかるまで、ミスティナ様には指一本触れさせません……!」
「そんな権限、侍女にあるの?」
「ミスティナ様はアクシー家の宝!お屋敷のルールには、従って頂きます!」
「おれが喉から手が出る程欲しがっている宝物を、独り占めするんだ……。いい度胸だね。冤罪吹っ掛けて、牢獄に突き飛ばしてもいいんだよ」
「ひ……っ!」
「殿下。ツカエミヤをいじめないでください」
「おれは虐められている方だ。そこの侍女がミスティナとの再会を拒むせいで、おれはとても傷ついた。ミスティナ。おれの心、癒やしてくれるよね」

 殿下は有無を言わさぬ声音で、私に命じた。
 150通にも及ぶ手紙を無視されたことに、相当苛立っているみたいね。
 ツカエミヤは私の前で震えながら庇っているし、彼女を押し退けて殿下の元へ歩みを進めれば、このまま彼に連れ去られてしまいそう。

 殿下の機嫌をこれ以上損ねたら、何が起こるかわかったものじゃないわ。
 最悪の状況を引き起こすわけにはいかないし、ここは私が犠牲になるべき場面よね。
 お兄様がこの場にやってきた所で、醜い言い争いが始まることはあっても、私の境遇が改善されることなどないのだから──

「ミスティナ様!」
「ごめんなさい。殿下。ミスティナ・カフシーは、殿下の心を乱してしまいました」
「うん。ミスティナがおれの物になったら、許してあげる。おいで」
「ミスティナ様!駄目です!」

 ツカエミヤを押し退けて前へ出れば、彼女はお兄様がこの場に現れることを信じて私の腕にしがみつき、殿下の元へ歩みを進めないよう拒む。
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