うちのクラスの吉田くん!

その3

 渡瀬(ワタ)と俺たちの出会いは特殊だった。


 高校入学の日、遅刻ギリギリの吉田(よっしー)は家族よりも先に一人学校に向かい、全力疾走で電車に飛び乗った。
(吉田にあとから聞いた話)

 そして吉田は電車を降り、家から持ってきた食パンを口にくわえてさらに走り、校門前を歩いていた俺と遭遇。

「あ、よっしー……おはよ」

 眠い目を擦りながら吉田に呼び掛けた俺の、小さく掠れた声は届かなかったらしく、吉田は俺の横を走り抜ける。

「え……?おい、よっしー待ってよっ」

 食パンをくわえて走る吉田の後ろを、朝が大の苦手な俺は息を切らしながらなんとか追いかける。

「よ、よっし〜……」

 俺の声は届かない。
 周りは親、親戚を連れた、俺たちと同じ新入生でいっぱい。
 しかもみんな俺たちを見ている。

「ま、待って……よっし〜……」


 吉田はやっと校舎前に来て立ち止まり、振り返って俺にようやく気付く。

「んあ、カズキんぐんぐ……」

 くわえていた食パンを食べ始める吉田。
 俺は疲れ切ってダレながら、まだ息を整えていた。

 そして吉田は食べ終わり一言。

「……食パン食いながら学校行くと、出会いがあるって聞いたのに。あれは嘘だな」

 昔アニメでよくやっていたシチュエーションだろうか。

 よっしーは、ただそれだけのために……

 俺は力が抜けてガックリとうなだれる。

 すると俺たちの後ろから一人の男子が歩いてきて、吉田の前に立ちはだかった。
 そして素早く、

っ、ぴ〜ん!

 そいつは吉田にデコピンをお見舞いする。

「うおぁ!??」

 驚く吉田に、一部始終を見ていたらしいそいつは言った。

「っ、いつの時代のアニメの、お約束だよっ!!」

 ……コイツ、釣られた。

 ツッコむことを抑えきれなかったらしいそいつ『渡瀬(ワタ)』は、吉田のやったアニメの“お約束”にまんまと釣られたのだった……
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