紳士な若頭の危険な狂愛
「お客さん、どちらに?」
運転手に尋ねられ、私は住所を伝える。
車が動き出し再度窓から路地を見ても、やはり美東さんはいなかった。
帰りながらスマホで藤代組を調べる。
しかし何故か情報が出てこない。
指定暴力団に認定されていない暴力団も多くあるとあって、もしかして美東さんのいる組はそういう組なのかもしれない。
ドラマで任侠ものとか、ニュースで指定暴力団の抗争などを見たことはあったけれど、本物のヤクザに会うなんて。
あんなに物腰が柔らかで優しい人がヤクザとは信じられない。
そうは言いつつ気づいている。
彼には危険な香りがしたことを。
だけど、その香りを嗅ぎたい。
また彼の視線を自分に向けたい。
(そんなのだめに決まってるでしょ)
両手で顔を覆う。
突然恋に落ちた相手は、あまりにも危険な人だった。