紳士な若頭の危険な狂愛

「藤代達治(たつじ)だ。
藤代組で組長を名乗っている。
お嬢さんは一谷さんだね?
義隆が助けたって言う」

四角い顔の眉の上には傷があり、ゆったりとした低い声だが迫力を感じさせる。

「はい、一谷綾菜と申します。
美東さんには二度も助けて頂きました」

「で、ここまで来た理由は?」

おそらくわかっているのに確認したいのだろう、私も全て話すことを決めた。

「美東さんに部屋の鍵を頂きました。
三週間後の日曜日に来るようにと。
ですが約束の日に行ってみると、既に引っ越しをした後でした。
ヤクザであることを美東さんは何度も言いましたが、私は彼に会いたくてこちらのお家まで押しかけてしまいました。
大変申し訳ございません」

「いや、構わないよ。
お嬢さんとは話してみたかったしね。
で、義隆と会えたとしてどうするんだ?
付き合って欲しいとでも?」

茶化すような声では無く、淡々と聞いてくる。
目は鋭いままで、私を推し量っているのは伝わってきた。

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