冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
「だが、雨宮が運命の番という事実に間違いはない。時間の問題だ」
「ふぅん、茉優ちゃんだっけ? キミ、柾の運命の番になるつもりはあるの?」
「えっ、私⁉︎」

 完全に野次馬気分だった私は椅子の上で飛び上がった。
 社長の視線が突き刺さる。
 回答を間違えたらどうなるか分かっているだろうな、というメッセージが込められていた。

 しかし正直に言えば。

「全然、ありませんけど……」
「おい雨宮!」

 私の返事に鏑木が腹を抱えて笑い出す。
 社長の顔つきが渋くなった。

 対照的な二人を見比べ、私は片手で頭を掻く。

「既に婚約者がいるのに、ぽっと出の私が運命面してその仲を引き裂くなんてこと、できませんよ」
「うんうん、普通はそうだよねえ。茉優ちゃんが真っ当な倫理観を持った子で良かったよ」

 鏑木が大仰に首を振ってみせる。
 完全にこちらを馬鹿にした言い方だったが、結論は私と同じなため一旦無視する。
 フォークを手に取り、前菜を口に運んだ。美味しい。イラついた時には美味しいものを食べるに限る。

 腕組みして私たちの会話を聞いていた社長が口を開いた。

「――ふざけるなよ」

 地を這うような声がその場を圧する。

 私は喉を詰まらせて社長を見つめる。彼は底冷えする瞳で鏑木を睥睨していた。鏑木のニヤけた表情が凍りつく。

「馬鹿馬鹿しい。雨宮、帰るぞ」
「は、はいっ」

 社長が私の腕を掴んで個室席を出ていく。足をもつれさせながら、私は後をついていった。
 前菜は美味しかったけれど、あの鏑木とかいう男と個室に取り残されるのは気が進まなかった。
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