冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
 その日は経営会議の実施日で、私は取締役会室の隅で議事録を取っていた。

 私は法務部に所属しており、経営会議の運営も仕事の一つだ。

 メモを取りつつ、PCのレコーダーで録音し、文字起こしソフトが正常に機能しているか確かめる。

 その時、室内に冷え冷えとした声が響いて私は首をすくめた。

「そのビジネススキームは検討が甘いと言わざるを得ない。差し戻しだ。来週水曜日までに今指摘した点を全て検討し直し、改めて報告するように。以上」

 たった今プレゼンを終えた経営戦略部の部長が「しょ、承知いたしました、月読社長」と汗をかきかき頭を下げる。

 私はちらりと声の主に目を向けた。

 コの字に並べられた机の一番奥、椅子にゆったりと足を組んで腰掛けた男——月読柾。

 日本を代表する大手総合商社、月読コーポレーションの御曹司でありながら、なぜか縁もゆかりもないクラウン製薬の社長に三十歳という若さで収まり、その類稀なる手腕で中堅どころだったこの会社を大手製薬会社の一角まで押し上げた猛者だ。
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