冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
 社長は帰ってくるのが遅いため、時折、私が寝る頃に出くわすことがあった。
 その日は、私がダイニングルームから自室に引っ込もうとしたところで、社長と鉢合わせた。

「おかえりなさい、お疲れ様でしたね」
「……ただいま」

 社長は目を瞬かせ、私を眩しげに見つめる。

 いつも隙なくスーツを着こなし、近寄り難い雰囲気を纏っている人なのに、今日は何だか疲れているように見えた。
 だからか、気遣うような言葉が口をついた。

「えーと、私は寝ますが。夕飯食べました?」
「そういえば、今日は食べる暇もなかったな……」
「なら、よかったら、冷蔵庫に入ってるシチューを食べてください。お口に合うかは保証しませんが」
「雨宮の手料理か」

 社長の目に生気が戻る。私は気まずくなって、視線を明後日の方に向けた。

「そうです。過度な期待はしないようにしてくださいね」
「雨宮の作ったものなら泥水でも美味いだろう、何せ運命の番だしな」
「は、反応しづらいです」
「じゃあ愛情が込められているから、とでも言えばいいか?」
「愛情はないですね。元々自分用に作ったものなので」
「今から入れてこい」
「あー、もう! 社長がお風呂入ってる間に愛情込めて温めといてあげますよ!」

 ……なんでこうなった。

 私はダイニングテーブルに座り、社長が斜め向かいで黙々とシチューを食べるのをぼんやり眺めていた。
 私が適当に作ったシチューでも、社長が綺麗な所作で食べていると、ひどく上等なものに見える。

「……雨宮は料理が上手いな」
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