冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
 リュックには第二の性の診断結果のプリントが入っていて、複雑な気分だった。
 アルファ。お姉ちゃんを傷つけた男と同じ。でも本当にアルファが優秀っていうなら、良い大学行って良い就職先見つけて、お姉ちゃんを楽にできるかも?

『ただいまぁ』

 一歩家に足を踏み入れて、おかしいと悟った。家の中は真っ暗だった。人の気配すら、一つもない。

『誰もいないの……?』

 息を吸い込むと、カレーの匂いに混じった、饐えたような臭いが鼻をついて、私はハンカチで鼻と口を覆った。
 暗い廊下を進み、そして。

『お姉ちゃん……?』

 手探りでダイニングの電気をつけ、私の目に入ったのは。

 カーテンレールで首を吊った、姉の無惨な成れの果てだった。

「――私は今でも夢に見ます」

 墓石を見つめて、私は拳を握りしめた。

「夢の中で私は、あれこれ違う事をしてみるんです。姉に励ますような事を言ったり、夕飯作りを変わったり。でも最後は同じ」

 吸う息が震える。何度も深呼吸を繰り返して、ぐすっと鼻をすすった。

「あの時、どうしたら良かったのか分からない。何て言えば姉を止められたんでしょう。私はもう姉の死んだ歳に並んでしまった。それなのに、大切な人の命を守る術すら思いつかない……」

 足元に視線を落とす。
 水の滴が、ぽたぽたと砂利の地面に落ちて、そこだけ丸く色を変える。
< 41 / 56 >

この作品をシェア

pagetop