冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです

エピローグ

 あれから。

 社長は無事に株主総会に出席し、株主質問にも堂々と答え、全部取得条項付種類株式の取得は賛成多数で可決された。

 鏑木商事はクラウン製薬に対する敵対的買収に失敗し、その責任を負って鏑木東生は近く経営陣から追い出されるらしい。

 社長が運命の番を見つけたことは月読家にも鏑木家にも伝えられ、婚約も破談になった。

 そして私はというと。

「俺は今日会社に直行だが、茉優も一緒に車で行くか?」
「いえ、お気遣いなく。特別扱いみたいになるの嫌なので……」
「実際俺の特別だろ」
「だから洒落にならないんですよ」

 何となく社長の家に居候を続け、変わらぬ毎日を送っていた。

 むすっと唇を尖らせる社長に、私はふふっと笑う。

 朝日に照らされるダイニングルーム。朝食を摂る社長に、仕事に向かう私。いつも通りだ。

 けれど今日は、ちょっとだけ時間にゆとりがあるから、すとんと社長の向かいの椅子に座ってみた。

 社長が驚いたように私を見つめ、それから優しく目を細める。

「どうした?」
「明日は二人ともお休みですよね。今夜したい事があるんですけど……付き合ってもらえますか」
「……今、俺は試されているのか?」
「何が?」

 と言いかけて、ものすごく語弊のある言い方をしたのに気がついた。
 頭を抱える私に、社長——柾さんが意地悪く笑いかける。

「もちろん、俺は何でも付き合おう。何でも、な。茉優は何がしたいんだ?」
「くっ……その、カレーを作ろうと思って」
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